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May 21, 2006

野沢 尚: 龍時 03‐04

単身スペインに渡ってプロサッカー選手となった少年の物語。第3作の文庫化。

第一作ではスペインでプロデビューし、日本人であることの意識を自覚するまで、第二作ではスペインリーグの中で移籍を経験し、恋模様も描かれた。
この三作目は2004年アテネオリンピックのサッカー代表の試合が描かれている。

最年少でサッカー五輪代表に選出された主人公・リュウジは、五輪代表監督・平義の元で組織戦術をたたき込まれる。
平義の組織戦術はドイツへの留学で学んだものという設定で、A代表監督ジーコの自由主義との対比が、ことあるごとに語られる。
その意味で、この作品の主人公はリュウジだけでなく、平義でもある。

他国の代表と戦うに当たって、どのような戦術を採用するか。
それが普段チームを組んでいない代表チームであればなおさらのこと、短時間で機能する戦術を徹底する必要がある。
その方針を監督が打ち出して、初めてチームは形作られていく。
ジーコと対照的な平義というキャラクターを登場させることで、日本代表に欠けているもの、ジーコに欠けている視点を浮かび上がらせているように思える。

試合はグループリーグ最終戦vs.ギリシヤ、準々決勝vs.スペイン、準決勝vs.韓国、決勝vs.ブラジルの模様が緊迫感を持って描かれている。
1つ1つのプレーに選手が何を感じ、何を考えているかが克明に描かれ、自分がそのピッチに立っているかのような錯覚に襲われる。
章立てで結果は分かっているようなものなのに、ページをめくりながら思わず手に汗握ってしまうほどだ。

作品自体は現実のオリンピック開催前に書かれているため、実際には出ていない選手もいるし、対戦も架空のものだ。
その意味ではDFに闘莉王、MFに鈴木啓太、FWに田中達也と五輪代表を送り込んでいることになっている浦和レッズサポーターには面白く、また選手の姿が目に浮かぶように読めるのではないだろうか。

惜しむらくは、この作品の続きが、リュウジの活躍がもう二度と読むことができないということだ。
作品に協力していた中西哲生との対談と中西の解説も涙を誘う。

この作品を読めば、選手が何を考えプレーしているか、監督は何を考えているのか、実際の試合も面白く観ることができるようになるだろう。
W杯本番で多くの試合を観る前に読んでおきたい本。

野沢 尚: 龍時 03‐04

野沢 尚: 龍時 03‐04

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