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July 24, 2006

大塚 英志: 初心者のための「文学」

近代文学の代表作を取り上げて、そこで描かれている内容をどう読むかを解説した本。

筆者は元々、近代文学とは言文一致体により「私」について、「私」とは何か、を語ったものであると定義している。
それは、現代社会でたびたび話題となる「自分探し」とつながるものがある。
閉塞感からの犯罪や集団自殺、引きこもりをゲームやコミック、ネットに要因を求める論説があるけれど、それを筆者は明確に否定する。
要するに、昔から(と言っても明治以降だけれど)みんな同じことを感じ、考えているじゃないかと。

この本では、さらに一歩踏み込み、戦時文学と呼ばれる戦中戦後の作品を取り上げている。
単純に戦争を賛美したり、 体制におもねる作品はまだ分かりやすいが、そうでない作品の中に戦時中に置かれた人たちの気持ちを読み取っている。

戦時中も、それ以外の時代と同様に「私」とは何かを考えている人たちはいて、ここは自分がいるべき場所ではないと考えている。
そうした人たちにとって、戦争は苦しくてつらい状況ではあるけれど、一方で閉塞的な平和時の社会への違和感を感じずに済むという意味で生きやすいと感じている様子がうかがえると筆者は説明する。

であれば、戦時文学を書かれた頃の状況が、閉塞感を感じている若者が多くいるという点で現代に共通するものがあるとするならば、現代においても戦争状態を生きやすいと感じる人が多いのではないか、そのように誘導される危惧があるのではないか、筆者はそう語る。

筆者の論拠にすべてを肯定するものではないし、取り上げられている作品をほとんど読んでいない者にとっては否定もできないけれど、ひとつの読み方として指標とすることはできるだろう。
今後、同じ作品について異なる解説を読んだ際も、なぜそうなるのかを考えることができるのではないか。
多分に筆者もそれを望んでいるに違いない。

下世話なところでは、筆者原作のコミックおよびノベライズに関する真実の吐露が含まれている。フツーの人は分かっていただろうことだけれど。

大塚 英志: 初心者のための「文学」

大塚 英志: 初心者のための「文学」

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