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September 21, 2006

そして謎は残った-伝説の登山家マロリー発見記-

1999年5月、エベレストで登山隊がイギリスの登山家ジョージ・マロリーの遺体を発見した。その登山隊の記録。

公式にエベレストの初登頂とされているのは1953年5月29日、エドマンド・ヒラリーとシェルパのテンジン・ノルゲイによるものだ。
その一方で、それに遡ること30年前、1924年にジョージ・マロリーとアーヴィンが登頂アタックをかけたまま、帰還しなかった。
事故に遭ったことは明らかだろうが、それは果たして登頂後なのか、登頂前なのか。登頂後だとすれば、初登頂はマロリーということになりはしないか。
それが山岳史に残る謎となっている。

そして謎は残った-伝説の登山家マロリー発見記-

そして謎は残った-伝説の登山家マロリー発見記-

その謎を、私は夢枕獏著『神々の山嶺』で知った。
この作品は、マロリーが持っていたとされるコダックのカメラを巡る争奪戦も含めて描かれた山岳小説だ。
マロリーたちが登頂に成功していたとすれば、そのカメラには証拠が残っているはずだ、その価値は計り知れないという設定は素人にも分かりやすく魅力的だった。
さらに、それまでたかが高いところに登っていくだけだと考えていた登山が、殊8,000m級ともなれば、薄い酸素の中でほんの1mでも、ほんの1歩でも進めることがいかに難しい作業となるのかを、この作品で知った。
それだけに、なんでも明らかにしてしまう現代情報社会において8,000mのほんのわずかな広さの場所に残されたマロリーの謎はとても印象的に記憶していた。

そして、1999年夏だったと思う。
購読していた新潮社の写真週刊誌『FOCUS』に、マロリーの遺体の写真が掲載された。
スキャンダルはもちろん、演劇も含めたサブカルチャーネタを得意としていた『FOCUS』の外電ページに、それはカラー掲載された。
抜けるような青空をバックに切り立った岩山と瓦礫の急斜面に横たわる真っ白な体は、遺体の生々しさはなく、それでいて70年以上経っているとは思えない鮮やかさを湛えていた。
報道写真ではあるのだけれど、ある種の神々しさも感じられるその写真をしばらく保存していた覚えがある。

今回の本は、Amazonでたまたま見つけた。
それまで、まったく知る機会がなかったため、最近の本かマイナーな出版社かと思ったが、1999年12月という初刷日付と文藝春秋という出版社名には驚きを禁じ得なかった。

本書は1999年の登山隊が結成されるところから始まる。
それに、文献などで積み重ねられた1924年(実際にはそれ以前も含めた)マロリーの登山隊の記述が交互に描写されていく構成を取っている。

登山は思い立ったらそのまま麓から一気に登っていくものではない。
ひとつひとつ基地となるベースキャンプを作りながら、進み、そこで消費する物資を麓から上げていかなければならない。
そうした荷物運搬のための人員と、またそれに必要な物資を用意しなければならない。
用意となれば当然のことながら資金がいる。そのためのスポンサーを探すところから本書では描かれている。
言ってみれば、夢もロマンもない話ではあるが、それは昔も今も変わらないことが、マロリー登山隊についての記述で分かる。
昔の方が国の威信を賭けているだけに、より軍事作戦になぞらえるような計画がなされたとの記述も興味深い。

話の佳境といえば、やはりマロリーの遺体が見つかるくだりだと誰しも思うだろうし、限られた範囲とはいえ8,000mの高度での捜索活動は非常に危険かつ苦労したものと思われたが、意外なほどあっさり見つかったとの記述は興味深い。
発見の後は、エベレスト登頂およびマロリーが登頂したかどうかの検証作業を行っていたようだ。本書の終盤はそうした検証作業のひとつひとつにページを割かれている。
それらはいずれも図やイラスト、写真も交え、分かりやすく解説されており、難解な文章からイメージを作り出す作業は極力軽減されている。

初刷りの日付からすれば、いかに短い期間で刊行され、翻訳されたのかを考え、内容の出来には少々心配にならざるを得ないが、そんな心配は不要な出来となっている。
登山家ではなく、多少なりともこうした話題に関心のある私のような門外漢にも分かりやすく、かつ妙な演出もなされず、正直に書かれていて好感が持てる内容となっている。

惜しむらくは、私を含め、この本の内容に興味を持つであろう人々に、この本の存在が十分に知られてはいないのではないかということだ。

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Comments

はじめまして。弱法師(よろぼし)です。
マロリーに関する本はまだ読んだことがないので、機会があったら、読んでみます。

Posted by: 弱法師 | September 24, 2006 at 03:13 PM

はじめまして、「ジョージ・マロリー」で検索して来ました。詳細な記事ですね~。

 彼の登頂への足跡はいまだに謎のままですね。

けれども、彼が成功したかどうかというよりも、あの当時果敢に軽装備でエベレストへ挑んだ勇気と信念にはとても感動するものがありましたね~。

私も今回、「ジョージ・マロリー」について記事にしました。よかったら一度いらしてみて下さいませ~ではまた!

Posted by: ルーシー | November 04, 2006 at 05:48 AM

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