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April 02, 2007

柳澤 健: 1976年のアントニオ猪木

アントニオ猪木の1976年に戦った4試合に焦点を当て、日本の格闘技界に与えた影響について述べた本。

1976年にアントニオ猪木が戦った4試合とは、
2月にミュンヘンオリンピック柔道無差別級および重量級金メダル、ウィリエム・ルスカ戦、
6月にボクシングヘビー級チャンピオン、モハメッド・アリ戦、
10月に韓国人プロレスラー、パク・ソンナン戦、
12月にパキスタンプロレスラー、アクラム・ペールワン戦を指す。

これらは異種格闘技戦であり、海外からの挑戦を受ける形となっており、アントニオ猪木がプロレスこそが世界最強であるとして、その後の総合格闘技のブームの中でも今なおカリスマとして存在し得る拠り所となっている。
それらの試合を、伝説ではなく、実際に何があったのか、どのような経緯でその試合が実現できたのか、その時点での日本プロレス界の状況、相手選手の経済的な面からも含めた背景を含めて丹念に調べられている。

また、本書ではプロレスを興行であり、決して真剣勝負の場でないことを前提としている。
身も蓋もないと言ってしまえばそれまでの事実は、「だからプロレスが弱い」とイコールでないことを、また浮き彫りにしている。
逆に強かったとしても、プロレスとして、すなわち興行として観客を楽しませ対価を得ることが許される上手さは、やはりまた別のものである。

それらを踏まえることによって、ルスカがなぜプロレスのリングに上がろうとしたか、アリはプロレスをどう見ていたか、猪木がなぜ韓国マットに上がらなければならなかった理由が見えてくる。
また、今や総合格闘技界において「猪木-アリ状態」ともてはやされ、再評価を受けている世紀の凡戦は、なぜあのような体勢に持ち込まざるを得なかったのか、が見えてくる。

それらの論拠には極力フェイクを排除しようというポリシーが感じられ、これまで定説とされていた伝説や言い訳の類を否定するくだりもあり、それは猪木の言葉のみを信じてきたものにとっては、受け入れがたいことかもしれない。
さらに、これらの試合を実現するための大きな要素として避けては通れない経済的な状況がある。それについて書かれた記述には猪木の実業家としての面、もっと言えば人間性に関わる部分については酷評とも言える内容になってはいる。

それらを猪木本人やファンの一部は受け入れられず、本書自体の評価もしないかもしれない。
しかし、本書は、決して猪木に対する悪意だけで固められたものではなく、評価を下げるような事実の積み重ねがあってもなお、1976年に行った4試合の意味合いは大きく、現在の総合格闘技ブームにつながっていることを感じさせてくれる。
その意味において、ドキュメンタリーとして非常に興味深い内容であり、その積み重ねの努力は並大抵のものではなかったであろうと推察されるものとなっている。

柳澤 健: 1976年のアントニオ猪木

柳澤 健: 1976年のアントニオ猪木

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