« 白倉 由美: ラジオ・キス | Main | 大塚 英志: 逆走少女-終わらない夏休み 1 »

September 28, 2007

柴田 哲孝: 下山事件最後の証言 完全版

昭和24(1949)年7月6日、当時の国鉄総裁下山定則が北千住-綾瀬間で轢死体となって発見された、所謂「下山事件」の真実を追ったルポルタージュ。2005年に刊行された作品に加筆しての文庫化。

多くの謎を残して今なお真相を追い求める者の絶えない戦後すぐの事件を著者が本にまとめることとなった経緯を序章に記している。

1999年の夏、『週刊朝日』8月20日・27日号からフリージャーナリスト森達也が「下山事件(国鉄総裁怪死)謀殺説に新事実」と題する記事を連載した。
その中で、森は「彼」と称する人物の証言を元に、「彼」の祖父とある組織の代表者「Y氏」が事件の実行犯であることをほのめかす。

記事は結局、確証を得ることなく謎を残したまま連載を終了しているが、3年後の2002年12月に連載に取材協力した社員記者の諸永裕司が単行本『葬られた夏 追跡下山事件』を発表。さらに2004年2月には森達也が単行本『下山事件』を出版した。

この一連の報道には、すべて「彼」なる人物の証言を軸にして全体を構成している。追加取材はあって、ある組織や実名も暴露されているが、「仮説に誘導する」という意図が見え隠れする、と著者は指弾する。

「彼」とは誰なのか、報道の中には正体のみならずその実在すらも明らかになっていない。さらにその証言には関しては明らかに虚実が入りまじっている、と。

なぜそう断言できるのか。一連の報道の中の「彼」こそは「私」であると、著者はネタ晴らしをする。

この序章の件だけで、引き込まれてしまった。

柴田 哲孝: 下山事件最後の証言 完全版 (祥伝社文庫 し 8-3)

著者が事件と関わり合うのは、著者の祖父の23回忌の席での、祖父の妹である大叔母の言葉からだった。
祖父が下山事件の犯人かもしれない、という大叔母の言葉に著者は調査を始める。

戦後の大事件だけに膨大な事件記録や数々の推理が残されている。その収集とまとめ。そして、祖父と大叔母が働いていた亜細亜産業という会社について、そこに出入りする人々について、大叔母からの聞き取り。

それらの記録から情報を丹念に取捨選択し、何が不自然なのか、どうすれば辻褄が合うのかを追っていく様は推理小説を読み進めるような感覚を覚える。

その中で事件の背景として語られる戦後の政治と産業界の関係は、とても興味深い。学校教育ではほとんど扱わない近現代だが、政治家として当たり前に知っている人物、その後の事件などで現れた人物たちが戦中戦後の日本で何をやっていたのか、改めて驚かされる内容も少なくない。

右翼から左翼、殺し屋と目される人々が日本橋室町のサロンに夜な夜な集まり歓談したり、広大な敷地を持つGHQ関係者宅で豪勢なパーティーが繰り広げられたりする様は、ダイナミックな戦後の復興を目指す日本の姿として魅力的にも映る。

そして、著者は祖父のやっていた亜細亜産業の元代表者に面会に行く。戦後ずっと表舞台には登場してこなかった本当の実力者に関する記述はスリルに満ちている。
地方自治体の首長が取り次ぐために現れ、広い日本家屋で日本刀を愛でるような存在はにわかには信じがたいが、それまでの流れで十分にリアリティに富んでいる。

事件の真相については、政治的背景と実行グループをほぼ特定し、事件が実行されてしまう経緯についてもほぼ明らかにしている。実行犯がイニシャルなのは残念ではあるが、致し方のないところでもあるだろう。

少なくとも日本の戦後史を学ぼうとするのであれば、登場人物といい、そこで活躍していた組織の関係といい、もっとも参考になるテキストと言えるだろう。

|

« 白倉 由美: ラジオ・キス | Main | 大塚 英志: 逆走少女-終わらない夏休み 1 »

Comments

違うでしょう。残念ながら戦後史を学ぶためには、ほとんど参考にならないテキストです。
http://www.geocities.jp/kosako3/shimoyama/nagashima_nengajo.html

Posted by: kkos | April 22, 2012 at 01:59 PM

Post a comment



(Not displayed with comment.)




TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/19147/16566823

Listed below are links to weblogs that reference 柴田 哲孝: 下山事件最後の証言 完全版:

« 白倉 由美: ラジオ・キス | Main | 大塚 英志: 逆走少女-終わらない夏休み 1 »