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December 03, 2008

栗原 美和子: 太郎が恋をする頃までには…

元テレビキャスターの女性新聞記者が、被差別部落出身の猿回し芸人との出会いを通じて、本当の恋愛と現実に向き合っていく話。

作品は、主人公である女性新聞記者の私小説という形式で描かれている。

40歳を過ぎるまで仕事に熱中しテレビキャスターという華やかな世界に生きてきたが、番組は若手に交代する形で追われ、それでもプライドを持って仕事がしたいと系列の新聞社に希望して異動し、企画ページを担当している主人公は、自ら提案した企画の最初のインタビュー対象として、20歳代にヒット曲も出したことのある40歳代半ばの猿回し芸人と出会う。
父親と共に廃れていた猿回しという芸能を復活させ、劇団の社長でもある彼は、自分が出会ってきた男性の誰とも異なり、どちらかと言えば苦手で避けるようなタイプだったが、強引とも思える誘いに徐々に惹かれていく。

こうして作品は、40代女性を主人公とした恋愛小説といった体裁を取っていく。
ただ、多くの読者はこの作品の作者がフジテレビのドラマプロデューサーという華やかな職業と経歴を持ち、猿回し芸人の村崎太郎と40過ぎで結婚し、周囲を、特に業界筋を驚かせ、芸能ニュースの対象となったことを知っている。
そもそも、この本のカバー写真は本人たちの婚礼写真となっている。
それゆえ、主人公は作者を置き換えたものとしか思えず、主人公の私小説となってはいるが、作者自身の私小説であるとしか読めない。

そのつもりで読み進めているため、主人公が彼に出生について打ち明けられたシーンなどは異様な迫力を伴って伝わってくる。
それまで彼に惹かれていく過程が今ひとつはっきりせず、甘ったるい調子の恋愛ものは、一気にシビアな私小説ものと変貌を遂げる。
知っているつもりだった部落差別、それも納得ずくでの恋愛、そして思い知ることとなる現在まで続くその差別意識と実状がリアルに描かれる。

この作者の結婚が芸能ニュースになった割には、この本がほとんどテレビなどで取り上げられず、通常のタレント本のように本人が出てきて紹介するようなこともまったくないことも、ある意味で差別が歴然と残っていることを表したものと合点がいく。

しかし、ラストで読み手はこの作品がやはり主人公の私小説であり、作者の私小説ではないことを暗示させられる。
そのことは何を意味しているのか、はっきりと知りたくはないが、何となく気まずさが残ったのも確か。

また、被差別部落の成り立ちについて、江戸時代の施政者によって設定されたとする通説がそのまま使われているが、これは古い説であり、いまの定説ではさらに古い時代からそうした被差別集団が形成されていたということらしい。
自分も最近になって知ったので、自省も込めてここに記す。

栗原 美和子: 太郎が恋をする頃までには…

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