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July 16, 2009

村上 春樹: 1Q84 BOOK 1

1984年の東京を舞台に、30歳前後の男女二人が遭遇した事件の話。

女は青豆、男は天吾という名前で、それぞれが章に分かれて、交互に語られていく。
この構成は『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』で使われていた手法で、村上春樹の作品の中ではもっとも好きな作品であるだけに、違和感はなく、却って期待感をかき立てられた。

ただ、ストーリー内容については『ノルウェイの森』に近いくらい具体的かつ現実的な固有名詞と描写に占められており、初心者でも読みやすい仕上がりになっている。

これ以上の情報は読む人の感覚を損なうと思われるので続きで。

村上 春樹: 1Q84 BOOK 1

村上 春樹: 1Q84 BOOK 1

青豆の職業にまったく触れない第1章、それに対し天吾は最初の第2章で出自から予備校講師でもの書きの卵で年上のガールフレンドがいることまで語られ、青豆に戻った第3章で殺し屋という職業を明かすところなどは、ついつい引き込まれるし、うまいなぁ、と感じる。

また、1Q84というタイトルの出自が割と早いところで明らかにされるところも読者に優しい感じがする。

とはいえ、殺し屋を副業とするスポーツインストラクターの女性と、若い才能のつたない文学作品のリライトを引き受ける若手のもの書きという設定は、なにも村上春樹が書くようなものかというほどベタでどこかで聞いたようなもの。
そんなものはミステリー作家かハードボイルドに任せておけば良いのに、と思わざるを得ないけれど、それを村上春樹がどう料理しているのだろう、という興味もまた尽きない。

1984年という時代設定も絶妙だ。
基本的には現代と大差ない暮らし向きで、その描写で読者が思い悩むことはないだろう。
ただし決定的な違いは携帯電話とインターネットの不在だ。
特に携帯電話がないことで連絡が取れない、取りにくいというシーンに違和感を覚える若い世代の読者はいるかもしれない。
ミステリー小説においてトリックの成立を携帯電話が阻害している部分は明らかだが、恋愛小説や一般小説でもその利便性ゆえのドラマ性の喪失は指摘されるべきだろう。

また、天吾がリライトした作品『空気さなぎ』の作者である17歳の少女、その少女の保護者である文化人類学者、少女の出自であるコミューン、青豆の両親の信仰している宗教の描写は、現実のものを容易に想像させる。
『タカシマ塾』は【ヤマギシ会】だろうし、『証人会』は【エホバの証人】だろう。
この辺が、読者の乏しい想像力をサポートするためだけにそうした設定を選んだのか、著者がそれらに何らかの意図をもって設定を作ったのかが、容易には読み取れない。
その辺が村上春樹らしさではあるのだけれど。

2つの章は、当たり前に同じ世界を描いていると読めるものの、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』を読み一筋縄では行かないことも知っている読者としては、BOOK1の後半で、天吾がガールフレンドにオリジナルの小説を書いていることを話す件になって、青豆の章が天吾の書いた小説の中の世界なのではないかとの疑念におそわれる。
その疑念は晴れないまま、BOOK2に引き継がれる。

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