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October 14, 2011

斎藤 一九馬: 歓喜の歌は響くのか 永大産業サッカー部 創部3年目の天皇杯決勝

創部3年目で天皇杯決勝まで勝ち進んだ伝説的なサッカー部の成り立ちから終焉までを追ったドキュメンタリー。

少しでも日本のサッカー競技について知っていれば、天皇杯がプロ・アマ含めた数千というチームが都道府県予選を勝ち抜いて、最後にはJリーグチームも交えて元旦の決勝を目指す大会ということは知っているだろう。
Jリーグを始めとするプロチームが数十もある現在であれば、創部3年目のチームがそこを勝ち抜いていくことはほぼ不可能といえる。

この本では、Jリーグが始まる20年近く前の1975年元旦の決勝に進んだ永大産業サッカー部の短い歴史を取り上げている。
いくらJリーグより20年近く前とはいえ、決勝の相手は釜本邦茂擁するヤンマーディーゼルであり、山口県熊毛郡平生町を本拠地とする永大産業が相手となることはそれなりにサプライズな組み合わせであったことは想像に難くない。

この本ではひとりサッカー部創設を任された河口洋と、永大産業創業者である深尾茂を軸に二人の人となりから始まり、平生町にサッカー部を作り、徐々に実績を上げていく様子が描かれている。
典型的なワンマン創業者の深尾は会社のブランド欲しさにスポーツチームを持とうと考え、大学を卒業して就職した会社を3年で辞めていた河口を人づてに紹介され、3年で1部リーグ入りを厳命する。

河口は平生町に設立した子会社永大木材産業を本拠地として、工場の各部署から集めたメンバーでグラウンドを作り、自らも選手としてスタートするが、2年間で山口県リーグ3部優勝までしか辿り着けない。

これ以上は無理かと思われたが、日本リーグ1部の名古屋相互銀行が廃部することになり、その受け皿として永大産業が名乗りを挙げ、主力選手を移籍させる。
通常であれば山口県リーグ2部になるはずの翌年を特例で1部となり、そこで優勝、全国社会人大会でも優勝し、日本リーグ2部に昇格する。
この辺のくだりは、今では考えられない政治力も絡めた特例ばかりで、まだきちんと整備されていなかった地域リーグと日本リーグの拡大の気運が感じられる。

この後、ブラジル人選手も擁して永大産業が天皇杯決勝まで行く全盛期が描かれるが、その前に亡くなっていた深尾と共に会社は傾き、程なくしてサッカー部は廃部となり、永大産業もまた会社更生法を申請する。
エピローグでは最後まで廃部に反対した平生町の人々がサッカーを愛し続け、地域に根付いている現在の様子も描かれ、涙を誘う。

いまの日本サッカー界を作ったのはこうした人々の努力によるものであることは疑いようもなく、歴史が浅い分、こうした時期に活躍した人々の言葉はもっと残しておくべきだと感じた。
本編やエピローグでも永大産業OBの行く末が何人か紹介されているが、できれば主力選手や指導者たちのその後の活躍をもっと知りたかった。

斎藤 一九馬: 歓喜の歌は響くのか  永大産業サッカー部 創部3年目の天皇杯決勝 (角川文庫)

斎藤 一九馬: 歓喜の歌は響くのか  永大産業サッカー部 創部3年目の天皇杯決勝 (角川文庫)

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